東京地方裁判所 昭和51年(ワ)4269号 判決
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【事実】
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 三田村鳶魚(戸籍上の名は「玄龍」。以下、「鳶魚」という。)は、被告が発行する三田村鳶魚全集全二七巻別巻一巻のうち第一巻から第二七巻までに収められた著作物(以下、「本件著作物」という。)を著作して、著作権(以下「本件著作権」という。)を取得した。
2 原告は、鳶魚の妻ヤエの実妹である。原告夫婦は、鳶魚夫婦とともに、昭和二一年に埼玉県新座町にある平林寺に一緒に寄寓して以来、翌二二年六月ころ、東京都世田谷区世田谷一丁目一二三番地に移転したのちも、引き続き同居してきた。
原告の夫皆川豊治は昭和二三年五月一〇日に急死し、姉ヤエは昭和二六年二月三日死亡した。鳶魚自身も翌二七年五月一四日に、山梨県下部温泉波高島にある不二ホテルで死亡するに至つたが、その間、原告は、子女とともに協力して、物心両面にわたり、鳶魚夫婦を援助してきたので、子がない鳶魚は、これに感謝し、晩年には再三にわたり、その全財産を原告に贈与するつもりであると語つていた。
3 鳶魚は、妻ヤエ死亡の翌月である昭和二六年三月ころ、病状が思わしくないので、療養のため、下部温泉の前記不二ホテルに引き移つたが、その際に、原告に対して、本件著作権を含む自己の財産一切を贈与した。
4 原告は、その後、本件著作物の著作権者として、昭和三〇年ころには青蛙書房から、昭和四五年ころには講談社及び臨川書店から、昭和四七年ころには筑摩書房及び桃源社から、それぞれ鳶魚の著作物を出版してきた。
5 原告は、昭和四八年六月一一日、本件著作物につき、次の特約のもとに、被告に出版権を設定する旨の契約を締結した。
(1)原稿の引渡期日
昭和四八年六月一一日
(2)公刊期日
昭和四八年一一月一〇日予定
(3)出版物の体裁
上製四六判四〇〇頁二五巻予定
(4)第一回発行部数
各約五〇〇〇部(但し被告が決定する)
(5)予定価格
各巻予価一五〇〇円(但し被告が決定する)
(6)印税率
定価の一〇パーセント(但し編集・校閲費を含む)
印税支払方法
現金一時払
印税支払時期
各巻公刊後四五日以内
<中略>
7 よつて、被告は、原告に対して、前記出版契約に基づき、<中略>金四六五一万二〇〇〇円を印税として支払う義務があるところ、被告はこれを支払わないので、原告は、右印税及びこれに対する最終の印税支払期日の後である昭和五一年六月一五日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【判旨】
二原告が鳶魚の妻ヤエの実妹であること、原告の夫皆川豊治は昭和二三年五月一〇日に、ヤエは昭和二六年二月三日に、それぞれ死亡したこと、鳶魚自身も昭和二七年五月一四日に、下部温泉波高島にある不二ホテルで死亡したこと及び同人には子がなかつたことは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、原告は、娘時代に約一〇年間鳶魚夫婦と同居し、養子縁組の話まで出たこともあつたが、戦後においても、昭和二二年ころから、東京都世田谷区内の原告の借家で再び鳶魚夫婦と同居した。当時ヤエは病弱であつたため、炊事、洗濯等家事は、主として原告がこれを行ない、ことに、ヤエが病いに臥せり、鳶魚も寝たり起きたりの状態になつた一年間ほどは、両人の身の廻りの世話は全て原告があたつた。そのため、姉ヤエは原告に対して少なからず感謝の念を抱いていた。
また、<証拠>によれば、原告は、鳶魚の死後、本件著作物の著作権者として、昭和四三年ころには筑摩書房及び臨川書店から、昭和四五年ころには講談社から、昭和四七年ころには桃源社から、それぞれ鳶魚の著作物を出版してきたことが認められる。
以上において確定した事実に、<証拠>を併せ考えれば、請求の原因3の事実を認めることができ、<反証は>にわかに信用することができない。
もつとも、<証拠>によれば、終戦後は、原告自身も経済的にめぐまれず、満州から引揚げた夫は無職のまま昭和二三年に死亡し、その後は、自分の兄や亡夫の兄弟から仕送りを受ける等して漸く生活を維持する状態にあつたことが認められ、また、<証拠>によれば、生前鳶魚を経済的に支援したのは、主として、原告ではなく友人知己であつたこと、昭和二六年三月ころ鳶魚が下部温泉の前記不二ホテルに赴いてのち死亡までの一年余りの間、すでに同人が八〇才を超す高令で、しかも病弱の身であつたにもかかわらず、原告が鳶魚を訪ねたことは一度もなかつたこと、鳶魚の仮埋葬、本葬儀及び年忌等も、主として、右不二ホテルの経営者高野忠男及び鳶魚の知己友人等が取り行なつたこと、中沢夫は、昭和三〇年一二月ころ、原告とは無関係に、鳶魚の旧作を編集改稿して、鱒書房から、三田村鳶魚著中沢夫編「荒木又右衛門」を刊行し、中沢夫がその印税をすべて取得したことを窺い知ることができないでもない。しかしながら、これらの事実も、いまだもつて前記認定を覆すに十分な事情ということはできず、他に前記認定を左右するに足りる資料もない。
(秋吉稔弘 佐久間重吉 安倉孝弘)